私の心に深く響いた一冊、ソン・ウィンピョンさんの小説『アーモンド』をご紹介したいと思います。この本は、読んだ後にたくさんのことを考えさせられる物語でした。まるで、心の奥底に問いかけられたような、そんな不思議な感覚になる作品です。
私たちは毎日、、様々な感情と共に生きていますよね。嬉しい、悲しい、怒り、楽しいなど、たくさんの気持ちを感じています。しかし、もし感情を全く感じられない人がいたら、その人はどのように世界を見て、どのように人と関わるのでしょうか。
この小説は、そんな問いを私たちに投げかけてきます。感情の有無を超えて、人と人との繋がりの大切さや、真の「人間らしさ」とは何かを教えて腐る、貴重な読書体験となることでしょう。
あらすじ:感情を知らない少年ユンジェの物語
この物語の主人公は、ユンジェという男の子です。ユンジェは生まれつき「扁桃体(へんとうたい)」という、感情を感じる部分が普通の人よりも小さいため、喜びや悲しみ、怒りといった感情をほとんど感じることができません。心に感情のスイッチがないかのように、彼はいつも冷静です。
例えば、
悲惨な現場でも動じない
ユンジェが幼い頃、目の前で恐ろしい事件に遭遇します。普通であれば、恐怖やショックでパニックになったり、深く傷ついたりするような状況です。しかし、ユンジェはそうではありませんでした。
彼は、その光景をまるで他人事のように冷静に「観察」していました。感情が湧き上がらないため、状況を客観的に捉え、感情的な混乱に陥ることがなかったのです。この場面は、彼の感情の欠如を強く印象つける出来事として描かれています。
人の感情をデータとして処理する
ユンジェは、他人の感情を「感じる」ことはできませんが、それを「学習」することはできました。彼は、人々がどのような状況で、どのような表情や声のトーンかを注意深く観察し、それを頭の中でデータとして蓄積していきました。
- 泣いている顔を見た時、「これは悲しみの表現だ」と記憶する
- 大声で笑っているのを見た時、「これは喜びの表現だ」と理解する
このように、ユンジェは感情を経験する代わりに、そのパターンを論理的に分析し、社会で適切に振る舞うための「知識」として身につけていったのです。
危険な状況での冷静な判断
物語の中で、ユンジェが命の危機に晒される場面が何度か登場します。私たちが恐怖で体がすくんでしまうような状況でも、ユンジェは驚くほど冷静でした。
- パニックなどになることなく、どうすればこの状況を乗り越えられるか冷静に考える
- 最適な行動を瞬時に判断し、実行することができた
これは、感情が彼の判断を曇らせないという、彼の特性がプラスに働いた例と言えるでしょう。
暴力やいじめに対する反応
ユンジェが学校でいじめを受けたり、暴力を振るわれたりする場面でも、彼の冷静さは際立っていました。普通なら怒りや悔しさを感じるはずですが、ユンジェにはそれがありません。
- 相手の行動を攻撃と捉えるのではなく、物理的な行為として認識
- 感情的に反撃するのではなく、どのようにすればその状況を終わらせられるかを淡々と分析
この反応は、彼がいじめによって精神的に深く傷つくことがない一方で、周囲からは感情のない冷たい人間だと思われてしまう原因にもなりました。
この小説のここがすごい!:私の心に響いたポイント
『アーモンド』を読んで私が特に「すごい!」と感じた点がいくつかあります。この小説は、ただ物語がおもしろいだけでなく、私たちの心に深く響く特別な魅力を持っているのです。
独特の視点と感情表現
- 人の感情を論理的に分析。
例えば、あなたが友達と意見がぶつかって、ついカッとなって言いすぎてしまったとします。後で「なんであんなこと言っちゃったんだろう」と後悔する経験は、誰にでもあるでしょう。私たちは感情に流されて、冷静な判断ができないことがあります。
でも、ユンジェだったらどうでしょうか。彼は怒りの感情そのものを感じないので、友達が怒っていても「ああ、相手は今、脳が興奮して言葉がきつくなっているな」と客観的に理解します。そして、「この状況で、どうすれば一番良い解決策が見つかるか」と、冷静に考えることができるのです。
このように、感情に振り回されやすい私たちにとって、ユンの感情に左右されない冷静な視点は、新鮮な驚きを与えてくれます。まるで、感情というフィルターを通さずに、物事の本質をまっすぐ見ているような感覚です。

感情に流されやすいからうらやましい!

まだありますよ!
ユンジェを通して、感情があることの不思議さや、感情が世界をどのように色づけているのかを改めて感じることができます。
例えば、公園で夕焼けを見たとき、あなたは「きれいだな」「感動するな」といった気持ちになりますよね。心が温かくなったり、少し切ない気持ちになったりすることもあるかもしれません。でも、ユンジェだったらどうでしょう。彼は夕焼けの色や光の変化を客観的に認識しますが、「きれい」という感情は湧きません。
ユンジェの目を通して世界を見ると、普段私たちが当たり前に感じている「美しい」「楽しい」「悲しい」といった感情が、いかに特別なものかに気づかされます。感情があるからこそ、私たちは夕焼けを見て感動したり、友達との会話で笑い合ったり、悲しい時に涙を流して心を整理したりできるのです。感情が、私たちの毎日を豊かに彩っているんだと、改めて感じさせてくれるでしょう。
感情を直接表現できないユンジェが、どうやって人と心を通わせるのか、その過程が丁寧に描かれているからこそ、強く引きつけられます。
たとえば、クラスに転校生が来たとします。普通なら、私たちは「仲良くなりたいな」「何を話したらいいかな」って気持ちで、笑顔で話しかけたり、困っていそうだったら助けてあげたりしますよね。でもユンジェは、そういった感情がありません。彼が転校生に何かをしてあげるとしても、それは「友達を作るには、助けてあげることが正しい」と頭で考えて行動するんです。
最初は、そんなユンの行動は不器用に映るかもしれません。しかし、物語の中では、ユンジェが感情がなくても相手を気遣う行動をしたり、真剣に相手の話に耳を傾けたりすることで、少しずつ人との距離を縮めていく様子が描かれます。例えば、彼が友達のゴニの悩みを、感情抜きに論理的に聞いてあげることで、ゴニが「こいつなら何を話しても大丈夫だ」と心を許していく場面などです。ユンジェは、感情ではなく、行動や姿勢で相手に寄り添おうと努力するんですね。
このように、感情がなくても、人は繋がりを求めるのだという、人間性の根源的な部分に触れるような描写は、私たちに深い感動を与えることでしょう。
考えさせられるテーマ
- 「普通」とは何か?
感情がないユンは「普通ではない」と見られますが、感情がある私たちこそが、本当に「普通」と言えるのでしょうか。人それぞれの違いをどのように受け止めるべきか、深く考えさせられます。 - 共感と理解の難しさ
感情がないユンは共感することができませんが、私たち感情を持つ人間でさえ、他人の気持ちを完全に理解することは難しいものです。それでもなお、相手を理解しようと努めることの大切さを教えてくれます。 - 人間性の本質
感情がなくても、人は愛し、愛されることができるのか。人間らしい心とは、感情の有無だけで決まるものではないと、この物語は教えてくれるように感じます。
これらのテーマは、私たちが生きる現代社会において、非常に大切な問いかけだと感じました。
読者体験の考察:あなたに問いかけるメッセージ
私たちは、普段どれだけ感情に頼って生きているのでしょうか?

私は怖がりだし、顔色を伺いすぎて疲れちゃうところがあるから、恐怖を感じないのは羨ましく感じました。

でもホントにそうでしょうか。恐怖を感じるから痛みを理解したり、危険から身を守っています。

自分だけ辛いとなかなか相手の辛さを理解するのは難しいのに、感情というものが理解できないユンジェが理解しようと動いている姿には見習わないといけないし勉強になりました。
- 感情のないユンジェが、それでも他者と繋がろうと努力する姿を見て、あなたは何を感じるでしょうか?
- 「かわいそう」「変わっている」と決めつけがちな私たちの心に、この物語はどんな影響を与えるでしょうか?
こんな人におすすめ!
本屋で見たあらすじに惹かれいつか読んでみたいと手に取った一冊ですが、とても読みやすくいろんな方に読んでもらいたい一冊になりました。
普段あまり本を読まない方
難しい言葉遣いが少なく、理解しやすい文章なので、読書が苦手な方でも引き込まれるのではと思います。
「感情」について考えたい方
私たちが普段当たり前に感じている感情とは何か、その意味について考えてみたい方にもおすすめです。
多様な人々の生き方に興味がある方
「普通ってなんだろう?」「自分と違う人をどう理解すればいいの?」そんなふうに、人の多様な生き方や考え方に興味がある方には、たくさんの新しい発見があるはずです。この小説は、人それぞれの違いを認め、受け入れることの大切さを教えてくれます。
みんなと同じじゃなくてもいい、と思いたい方
自分は周りと違うかも…」と感じたことがある人や、「みんなと同じじゃなきゃダメなの?」と疑問に思ったことがある人にも、この本は深く響くでしょう。人と違うことの意味や、それをどう受け止めて生きていくかについて、考えるヒントを与えてくれます。
心温まる物語を読みたい方
切ない部分もありますが、主人公ユンが少しずつ成長していく姿や、彼を支える人々の温かさに、きっと感動するでしょう。
中学生や高校生の方
登場人物が高校生くらいのねんれいなので、彼らが経験する友情や家族との関係、自分らしさを見つける苦悩などは、きっと共感できる部分が多いでしょう。自分の気持ちや周りの人との関わり方について考えるきっかけになるはずです。
おわりに:読後に残るもの
この物語は、感情を持たない少年ユンの目を通して、私たちの日常、そして人間関係を新たな視点から見つめ直す機会を与えてくれました。
私がこの本を読んで一番強く感じたのは、感情の有無に関わらず、人と人とのつながりこそが、私たちの心を豊かにしてくれるということです。

ちなみに私が好きな文章がこちら
本のことを
開いた瞬間から話し始めるのだ。ちょうど僕が望む分だけ。
といっている部分があるのですが、
「ちょうど僕が望む分だけ」という表現が、私が本を好きな理由の解釈のようでしっくりきました。
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