──『方丈記』が教えてくれた、本当に大切なものの見つけ方
■ こんなにも幸せなのに、不安だった
日々の暮らしに、ふとこんな思いがよぎることはありませんか?
「今がいちばん幸せかもしれない」
「でも、だからこそ、失いたくない」
「このままずっと続いてほしい」
私はまさに、そんな気持ちを抱えていました。
特に、一人息子と過ごす毎日は愛おしくて、
成長は嬉しいのに、どこかで寂しさがにじみます。
“今がいちばん幸せなのに、なぜこんなにも怖いのだろう?”
そんな自分にモヤモヤしていたとき、出会ったのが鴨長明の『方丈記』でした。
■ 「すべては移ろう」から始まる、心の変化
ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。
よどみに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。
──冒頭からつきつけられるのは、「無常」という現実です。
でも読み進めるうちに、私は不思議な感覚に包まれました。
変わらないものなど、もともとこの世にはなかったのかもしれない。
だったら、変わることを恐れる必要もないのかもしれない。
■ 執着が「今」を苦しくする
鴨長明は、災害や争いで何もかもを失い、
最後には一丈四方の小さな庵で暮らします。
その暮らしは、質素だけど心豊かで、
あらゆる「持ちすぎること」から自由になった姿でした。
それを読んで、私は気づかされました。
私が怖がっていたのは、
「今の幸せが変わってしまうこと」ではなく、
「それに執着している自分自身」だったと。
- 子どもが成長することに喜びを感じながら、変化を恐れていたこと
- 失いたくないと願いながら、逆に今を味わいきれずにいたこと
執着とは、未来をコントロールしたいという心。
でも、それはできないからこそ、苦しくなるのです。
■ 捨てることで見えてくる「本当に必要なもの」
鴨長明は、すべてをそぎ落とした暮らしの中で、こう記します。
世の中にまじらへば、むさとくわしく、人のことどもかなひがたし。
されば、身を捨ててこの道に入りたるのみ。
「身を捨ててこの道に入る」──これは投げやりではありません。
持ち物や人間関係、名誉、未来への不安──
そうした“たくさんのものを持とうとする心”を手放すことで、
むしろ、本当に心地よい時間と空間、静けさが残ったのです。
それは現代の私たちにも通じます。
- SNSで比較しては焦る毎日
- モノを増やしても満たされない感覚
- 「将来のために」と思うほど今が遠のく感覚
そんなとき、一歩引いて、自分にとって「本当に必要なものは何か?」を見つめ直す。
『方丈記』は、それをやさしく促してくれるのです。
■ 私が本当に欲しかったものは「今、この瞬間」
執着を捨てるというのは、「何もいらない」と言うことではありません。
むしろ、いらないものを手放すことで、いま目の前にある幸せをまっすぐ感じられるようになることだと思います。
- 子どもと一緒に笑い合うこと
- 今日が無事に終わることに、ほっとすること
- 今という一瞬が、いつか懐かしい宝物になること
『方丈記』を読んだあと、私はようやく、
「変わるからこそ、今がいとおしい」と素直に思えました。
■ まとめ:本当の豊かさは、少しのもので満たされる
現代は、持ちすぎる時代です。
情報もモノも、選択肢も、人間関係も──
でも、『方丈記』はこう教えてくれます。
本当に必要なものは、実はそう多くはない。
執着を手放すことで、ようやく大切なものが見えてくる。
不安になったとき、寂しさに飲まれそうになったとき、
少しだけ立ち止まって『方丈記』を開いてみてください。
変わりゆく日々の中で、あなたの心に静かな灯をともしてくれる本です。
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